月夜見  
“梅は咲いたか 桜は…”

      *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより
  


 今年の冬は暖かだったね。ああそうだな、結局町には雪が降らなんだ。そんな会話が交わされていたものが、そろそろお彼岸、それが済めばいよいよ桜の季節ですねぇなんて言い出した今頃になって、急にすこぶるつきの寒さが戻って来たからたまらない。数値的にはいわゆる“平年並み”なのだろうが、その直前までの日々が冬場には異様な暖かさだったから。その落差の大きさから“途轍もない冷え込み”だと感じられたのも無理はない。粋で洒落者な江戸っ子は、暦の上での春を迎えたらもう綿入れは着ない、タビも履かない、なんてのが常だとされたそうだけれど、このお話の舞台は“グランド・ジパング”という架空の世界だからだろうか。大慌てで仕舞ったはずの袷
あわせや綿入れを引っ張り出す者も少なくはなかったとか。そして、そんな世間様の恐慌ぶりに紛れての、小さな小さな事件もあったりし………。



 月が変わったと同時に、昼の長さもどんどんと、実感出来るくらいに長くなった。何より明け方の時間が早まって、朝の早い仕事を持つお人には“ああ春が間近いね”という実感もひとしおで。お水はまだまだぬるまないが、明け方が一番に冷え込むが、それでもそこは気持ちの問題として、晴れ晴れと気持ちがいい。そんな爽快で凛とさえた空気の張り詰める早朝、
“おや。”
 こちらは夜がお仕事の場である、夜鳴きソバ屋の屋台を引いての帰宅途中のドルトンさん。朝晩が特にきゅうっと冷え込むその中を、靄のような白い息をついて立ち止まったは、町でも有名な神社の鳥居前。社務所までの参道が真っ直ぐに伸びており、祭事の頃合いにはちょっとした縁日も開かれる、広々とした境内の様子が、そこからでもかなりの深々とまで望めるのだが。きれいに掃き清められた石畳の参道が伸びるその向こう、ここの名物の梅の木が大小様々に連なってるそのどんつきの、特に有名な大樹の根元に人影があったのへと気がついた。こんな早い時間にお参りの人がいるのだろうか、それとも、

  “…さては。”

 少しばかり思い当たることがなくもない身の彼としては。それが誰かを確かめるのは、もしかするとそれこそ野暮なことかもと苦笑混じりに気を回し、ようよう見渡しもせぬまま、視線を逸らしてのそそくさとそこから立ち去ったのだが。後になって、しまったそんな余計なことをしなくとも、見たら見たで黙ってりゃいいだけのことだったのだと、迂闊な気遣いとなってしまったこと、思い知ることとなる。





            ◇



 この“グランド・ジパング”へ春を最初に齎す行事はというと、何と言ってもシモツキ神社の梅祭りだ。広い境内には白梅紅梅だけでなく、一重のものや山桜みたいな八重のもの、枝が柳のようになって枝垂
しだれたもの、花弁が縮れた福々と優雅なものなど、それは様々な種類の梅の木がたくさん植えられており、中でも一番の大物は、社務所の陽避けみたいなほどもの大きさと枝振りが立派な枝垂れ梅。樹齢何百年とも伝えられたる大きな樹で、ぼたん雪みたいな花をみっちりとまといつけたすだれのような枝々が、正に花の房のようになって折り重なり、太い木の幹の回りをふわりと取り囲んでいて。それが風に押されて重たげに揺れる様は何とも風雅で、いつまで眺めていても見飽きない、さながら夢幻の世界のような佇まい。

  ――― 花の重なり具合が、まるで視線を吸い込むようなのよね。
       そうそう。お花のしっとりとした質感がまた、瑞々しくて。
       そこへあの、梅のお花独特のいい匂いもするじゃない。

 町の人々にはすっかりとお馴染みの名物でもあり、桜の花見と同じくらい、これを見なくちゃあ今年の春が始まらないとばかり、こちらの梅見物にも人出があるのが通年のことなのだが…。



  「…おや、麦ワラの親分じゃねぇか。」

 どこか様子のおかしい膨れっ面の大胡座。尤もらしくの腕を組んでまでして、見事な枝垂れ梅のその根元、地べたへ直に座り込んでいたお人へと、その背後からの妙に気さくなお声がかかる。彼もまた、この“グランド・ジパング”の、名物といや名物で。まだまだ若造、駆け出しという年齢でありながら、先の親分の名跡を早くに継いでのそれ以降、正義感バリバリ…というのとはやや異なる種の勘違いも多いながら、それでも熱血お元気な活躍で、町の治安を守るのに東奔西走、日夜頑張っている十手持ちの岡っ引き。飛ばないようにという下げ紐で首から背中へと提げている帽子から、その名も“麦ワラの〜”と親しまれている、モンキー・D・ルフィ親分、その人であり。日頃は…事件を追っかけている最中は別にして、気さくで明るく、天真爛漫な彼だというに、今は少々機嫌が悪そう。だが、
「なんだよ………って、あ。////////
 こちとらこれでもお調べの最中だ、気安く声掛けてんじゃねぇと言わんばかりの不機嫌さで顔を上げ、肩越しに振り返った彼だったものが。声の主を見やって…あっと言う間に態度が変わった、その素早さと言ったら見たらvv むっつりしていたお顔が呆け、押し寄せつつある感情に合った表情へと変わる前に、早くも朱が走っての赤くなり…と来て。
“凄げぇな〜、手妻みてぇ。”
 あまりの鮮やかな変わりようへ、声を掛けた側もついつい感心して言葉を滞らせたものの、
「どしたんだ、そんなとこへ座り込んで。」
 まだまだ地べたは冷たかろうによ、腰が冷えると丈夫な ややが生めなくなるぞ、なんて。その墨染めの僧衣には何とも不似合いな生臭いことをからかうように口にした、雲水姿のお坊様。何とも堂に入った物言いをなさるが、よくよく見ればまだまだお若く。頭だって剃髪まではなさっていない。もしかすると、僧籍などないところのただの流民であるのかもという風情もなくはないが。大きな手は拳にすればさぞかし堅くて頼もしそうだし、手首や短い袖からほぼ剥き出しの前腕も、それは雄々しくも力強くて。お坊様ではないならば、一体何をなさるお人なのやら。屈強精悍な肢体と豪快そうな態度とが、只者ではないらしいと見えなくもない。とはいえ、
「ばっきゃろー、俺は男だ、ややなんか生まねぇよ〜だっ。////////
 いきなり何を破廉恥なことを言い出すか、こやつは…という方向で赤くなったルフィではなかったものの。ここを望める社務所に人がいたとしたならば、あれ、親分さんたら初心
うぶなことよと、そっちの方向で笑われたに違いなく。だって、そんな機微なんて思いもつかなかったくらいに、目の前に現れたお人の方が、彼を落ち着かせないでいたのだし、
「坊さん、いや…えと…、ぞ、ぞろ。」
「あいよ。」
 何だいと即妙に応じてくれて、にやり笑ったそのお顔へと、
「〜〜〜〜〜。////////
 やっぱり かぁっと真っ赤になった親分さん。胡座をかいてたその足の、両足首を双手で掴み、もじもじもじと含羞みながら俯いたもんの、
「こんなところで何のお調べだ? ここは神社だから管轄が違うだろうによ。」
 坊様からのいやに現実的なお言葉を聞いて、はっと我に返るとお顔を上げる。この尊大なお坊様の言う通り、同心の旦那であるゲンゾウの配下のルフィが手をつけて良いのは、町奉行所の管轄する事件であり。お寺や神社で起こった事件へは“寺社奉行”というところが調査に当たる。とはいえ、その事件が 神社仏閣内でのしきたり上での揉めごとや何やではなく、窃盗や暴力行為やらという“犯罪”であった場合は、そんな調査に心得はない部署なので、結局は町奉行の方へと依頼が回って来るのだが。そんな事情はいくらルフィが若輩であれ、基本中の基本だ、重々知ってる。馬鹿にすんなと顔を上げたそこへ、
「それとも何か? 俺が通るのを待ってたか?」
 くつくつと笑ったお坊様、
「俺は“用があったらこよりを巻け”と言いはしたが、親分が待ってろとは言ってねぇだろによ。」
「ううう、うっせぇなっ!////////////
 おおう、ますます赤くなったところを見ると、まんざら、そっち絡みの話では無いって訳でもないらしく。

  「そのこよりが盗まれたからっ、落ち着けねぇんだろうがよっ!」
  「………おや。」

 ゆで蛸みたいな真っ赤っかになっての怒号には、さしものお坊様も、その切れ長の翡翠の眸を瞠目させて、表情を止めつつ息を引く。…って、さっきから彼らが口にしている“こより”とは何ぞやと、お思いの方もおいでかもだが。(いないかな? 自惚れても良かですか?) このお話は、発端から数えてこれで3作目となるシリーズ化…しかかってる代物で。その2作目に当たるお話の中、ルフィが窮地にあるといつも助けてくれるこのお坊様に、こっちから話がある時はどうすれば捕まえられるのかと詰め寄ったところ、じゃあこうしようと持ちかけられた、伝言方法というか合図というかのこと。シモツキ神社の一番大きな梅の木の枝に、赤いこよりを巻いておけと。そうしたら、それが親分が呼んでるぞという合図になるからと。そんな打ち合わせをしてあった二人なのだが、

  「だから…。/////////

 何で赤いこよりかは、梅の枝に蕾がついて膨らみ出した頃合いになってやっと気がついた。淡い緋色の花が咲く樹だからで、白いこよりでは目立たないのと、おみくじを結ぶ人もいて、それとの区別がつかないからだ。で…月が変わった先週の初め、特に用向きなんてものは無かったけれど。何でかやっぱり、ずっと全然顔を見ないままだったので。詰まんないからと…赤い半紙を探して、それから。

 『短いのじゃ巻けないじゃんか』とか、
 『堅い紙じゃあしっかり結べない』とか、

 何度か試しに巻きに来てみての数日後。やっとのことで、それらしいのを無事に結べて、ほっとして。でも…あれれ? こよりを巻いたが、どこで会えるのかなと思った。それで半日も経たぬうちの昼頃に確かめに行くともうこよりはなくて。ああ、見てくれたのかと安堵したが、その日も次の日も逢えないまま。もう一回と巻いたが、こよりはなくなるのに、やっぱり逢えず。だが、何度目かの正直で巻いた今朝の分を確かめにと、つい先程ここへと来たところ。
『…う〜ん。』
 神主様が樹の傍らで小首を傾げておいでで。どうしたんだいとさりげなく訊くと、

  『罰当たりにも枝を切ってく者がいるらしいのですよ』

 まだ咲いてもいないのに。まま、梅は生命力が強い樹ですから、切った枝からも花が咲きはしますけれど、切られた本身もそこからすぐにも新芽が芽吹きはしますけれど。無体なことをする人がいると。
「それって…」
「おう。俺がこより巻いた枝ばっか、切られてたんだよっ。」
 そうなのだ。逢えないまんまの捨て置かれてたわけじゃあない。そもそも彼の目に留まっていなかったのだ。だったら、ここにいるゾロが悪い訳じゃあないのだけれど。

  “…でもサ。/////////

 ちょっとはワクワクもした、ずんとドキドキもしていたこの一週間ほどだったのに。その期待を冷たくも裏切られ、それで腹立てて、それでももう一遍と運んだら、そんなことだと聞かされて。独り相撲だったらしいという恥ずかしさも加わっての、どうしてくれようかと腹の虫が収まらずにいたところへの、当のご本人の登場だもの。図らずしも逢えたのは嬉しいけど、ワクワクしちゃあ夕方にはしょぼんとなってた繰り返しだったこの数日の思いを振り返れば…どんな顔すりゃいいのかが、親分、ちょっと判らなくって。
“バッカみてぇじゃんかよな。”
 俺一人で、勝手に舞い上がったりしょげてたりしててよ。馬鹿みてぇじゃんかよと、結局のところ“拗ねる”に落ち着いたらしい。
「〜〜〜〜〜。」
 むむうと膨れてのこと、お口を真一文字に結んだ親分さんの、いかにも稚
いとけないその様子へと。その男臭いお顔を何とも言えぬ甘やかな苦笑に綻ばせたお坊様、

  「…それなんだがな。」

 自分の鼻の下、人差し指で横へと擦って見せると、僧衣の懐ろから掴み出したのが…赤いこよりが ひのふの3本ほど。
「………え?////////
 え?え? なんで? それって、もしかして俺の? でも、だって。枝ごと切られて盗まれたって…。だってのに何でどうして此処にあるのかと、何が何やら訳が分からず。
「???」
 キツネにつままれたとは正にこのこと、キョトンとしての表情が止まったルフィへと、ますますのこと深みを増した苦笑を向けると、

 「もう心配は要らねぇよ。」

 からかうような言い方して済まなんだな、と。ほれと手を延べ、こよりをルフィへと返そうとする。判らないままに、それでも。黙って両手で受け取ったルフィへと、
「俺の方でも偶然のことだったんだがな。ちょうど今朝方、この神社からこっそりと、枝垂れ梅の枝を担いで出て来る奴を見かけての。」
「…え?」
 妙に怪しい素振りだったんで、何だか気になって後を尾けると、そいつは場末の花屋での。それが華道の師匠に入れ上げて、有名な梅の木です…なんて言って、献上してやがったらしくてよ。
「とはいえその師匠、確かに美人のいい年増だったが、ちゃ〜んと旦那のいる身でな。しつこく言い寄る花屋を“鬱陶しいねぇ”って とうとう振っちまったから。」
 さあ、そうなると可愛さ余って何とやらで、痴話ゲンカになっちまっての。旦那とやらも来ていての、結構な掴み合いになってたが、そんなこたぁ俺には関係ない。それよりもと見やれば、梅の枝も台所の水口へと放っぽり出されてたんで、とりあえず。
「こっそり こよりだけ外して取り戻して来たんだよ。」
「あ…。////////
 ちょっと不格好な搓り方が、他人には真似出来なかろう特長のあるこよりが戻って来たこの事実と、それから。一通りを説明してくれた乱暴な口利きのそのまんま、にんまり笑ったお坊様の不敵な笑いようへと。何だか何だか無性に嬉しくなってしまった麦ワラの親分であり、そこへと追い打ちを掛けたのが、

 「中に何にも書いて無くてよかったな。」
 「え?」
 「だから。捕り物の内緒の打ち合わせ話とか書いてたら、
  それを広く触れ回られて、同心の旦那から叱られてたかもだ。」
 「あ…そそそ、そうだよな。////////

 ああそっちかと、思ったその“そっち”って…じゃあそっちじゃない方ってのは何なんだろか。何で俺、焦ったんかなと、そう思った端から、またぞろお顔が真っ赤になってる親分さんであり、


  「………で? 一体 何の話があっての呼び出しだったんだい?」
  「あ〜、えっとぉ。その〜〜〜。///////


 淡い緋色の梅の花では、隠し切れない真っ赤なお顔。えとえっととどぎまぎしている可愛らしい親分さんが、はてさて一体どんな言い逃れをするのだか。ちょっぴり意地悪くも楽しみにしつつ、暖かな春の日和の中、語り始めるのを待っていたお坊様だったそうな。







  ◆ 付け足り ◆


 結局のところ“用なんて忘れたっ”と大威張りで胸を張った親分さんだったので。双眸を点にしてから…どういうツボに嵌まったか、腹を抱えるほどひとしきり笑ったお坊様。
『それじゃあ、機嫌を損ねさせた揚げ句に用件を忘れさせた、これはお詫びだ。』
 ほれと、やっぱり懐ろから取り出したは、大きめの紙袋にごっそり入ってた瓦煎餅で。花屋の尾行からの帰り道、いい匂いをさせて焼いていたので、親分さんが好きそうかなと、つい買い求めたのだとか。それを食べてるその間、梅の木の下でたっぷりと他愛ないお話を楽しんで。それじゃあ、市中見回りがあるからと、名残惜しげに立ち去った小さな背中を見送ってから………。

  「済まなかったな、ゾロ殿。」
  「いやなに。気を遣って下すったんだろ?」

 社務所の陰からひょいと現れたは、夜鳴き蕎麦屋の大柄なご亭。こよりを合図にしようというあの時のやりとりを、すぐ傍で聞いてたドルトンさんが、此処でばったり行き会わせたなら。こよりを持ってた親分がきっと照れるに違いないと。そうと思ってのそそくさと、ろくに見もせず立ち去ったとの話を訊いたのが、その目撃から一週間が経っての昨夜のこと。
「それでも、だ。別に声まで掛けずとも、姿くらい確かめといて、それからお主へ伝えるということも出来たろうに。」
「いや、それはどうだろか。」
 くすすと、僧衣の隠密さんは小さく笑い、
「あんたも不器用な方ではあるが、だからこそ。当てこするような冷やかしを言うことになるのは失礼だろうと思うんじゃないか? だから、親分だと確かめていたとしたって、こよりを結んでいたねぇなんて話、自分から口に上らせることは出来なかったに違いねぇよ。」
 だから。彼が見かけた人影というのが、ルフィだったのかそれとも、その枝を怪しんで、切って持ち逃げした窃盗犯の連中の手先だったのかは、今もって不明のままだ。

  「ほんっとに間の悪い親分さんだよなぁ。」

 岡っ引きとして有名なお人だから…にしたっても、今回のはやっぱり微妙に“彼のせい”だとは言えないのではなかろうか。だが、そやつは、勝手ながら“何かある”と睨んだらしく。

 そう。

 選りにも選って、梅祭りで賑わうことから開放的になるここいらの家々を、昼間の白昼、堂々と空き巣して回ろうと目論む窃盗団が来合わせていたらしく。その鼻先での、岡っ引きの親分の不審な行動とあって。勝手に警戒されての盗み見をされたというのが実はの正解。あれで凄腕の親分だって噂だ、何かしら感づいての、捕り方のお手配の連絡だろか…なんてな方向へと勘違いされてしまったようで。

  『それにしても枝ごと持ってくとは乱暴だな。』
  『ほどいたこよりに何も書いてなかったからだ。』
  『そっかそっか、そこまでの打ち合わせもしとけばよかったなぁ。』

 一番最初のは、こよりだけを盗み、次からが枝ごとという乱暴さになったのもそんなせい。そして、

  『お前らの噂は都より聞いている。
   あちこちの藩で派手に稼いで来たそうだがの、
   それも今日此処で、年貢の納めどきってやつだ、諦めな。』

 隠密やお庭番としての彼への任務だという、指示やお達しがあった訳ではなかったものの。そこはそれ、立派な
(?)前科を持つ広域手配中の窃盗団なら、捕まえるのも職務のうち。わざとに肩書だけひけらかしてる役人風と振る舞って、塒アジトまでを案内させて。一斉に襲い掛かれば何とかなろうと思い込ませたところは、なかなかのタヌキっぷり。自慢の剣戟であっと言う間に一味全員、返り討ちにと叩きのめし、ひとからげにしたその上で。自分を尾けてたこの藩の女隠密さんへ、梅の枝つきの文を放り、後はよろしくと任せてある周到さ。

  「こんな小さくて平和な藩に向かえと言われたときは、
   きっと退屈で死ぬんじゃねぇかって思ったもんだがな。」

 そんなのとんでもないって現状なのが楽しいという、いささか物騒な隠密様だが、

  “暴れられるという、それだけでもなかろうに。”

 荒武者のその血を満足させているのは、結構事件も多くて大暴れ出来るという、そんな環境だけの話ではなかろうと。これはドルトンさんの胸中での独り言。返し損ねたか故意に残したか、その大振りの手の指先、輪っかにしてクルクルと回しているのは、さっきあの親分へ返したはずの赤いこよりの一つであり。

  “いやはや、春も近いことですなぁ…。”

  うふふ、そうですねぇ…vv






  〜 どさくさ・どっとはらい 〜   07.3.14.


  *あららん、ホワイトデーにこんな話ってどうよなUPになりましたねvv
   なかなか好評だった捕物帳パロディの第三弾…とはいえ、
   あんまり“捕物帳”って意味がないよなお話かもですけれど。
(う〜ん)
   少しでも楽しんでいただければ幸いですvv

ご感想などはこちらへvv**

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